脚本術のフィールドワーク:『「感情」から書く脚本術』を読み終えて
おつです。おひさしぶりの更新。
今日、『「感情」から書く脚本術』を読み終えた。読み始めてすぐにも思ったがこの本は脚本術における先行研究みたいな、かなり包括的な議論がされている書籍だった。物語を作るという行為に置ける、幅広い技術的な問題意識を扱っているし、細かい演出面についても書いている。邦訳されている脚本術の書籍は基本的に入門的なレベルに落ち着くものが多い中、これだけ包括的な議論のできている書籍は他にないと思う。これ一冊読んでおけば本当に幅広く知識がつく。『ストーリー』が理論的なバイブルだとすれば、『「感情」から書く脚本術』は実例集、辞書、フィールドワークみたいな感じがある。
で、そういう本だったので、今まで自分の持たなかった視点がいくつか得られた。
前提:今までの問題意識
前提として今まで自分の問題意識としてあったものを整理しておきたいのだが、
- 内的問題と外的問題
これは俺の卒論の内容。
全体構成が内的問題と外的問題から成り立ち、それは最小単位のドラマにおいては動機と行為、物語の要素としてはキャラクターとストーリーに代表される、という考え。
内的問題と外的問題という言葉に全てが収斂しているのは気持ちが良いし、実際『ストーリー』などを読む限りいい線いってるとは思う。ただ、若干定義が怪しい。 - 伏線の技術
これも学生時代に考えたやつ。伏線の分類をしたんだが、散逸してしまった。原因となる伏線、フックをかける伏線、埋められた伏線、気がつけば面白い伏線、的な分類だったような。。 - 使い勝手の良い演出
『沈黙』で遠藤周作が同じ演出を何度も使い回す、というのがあった。かつ、どれも結構面白かったので、演出は構造的な面においては別に同じでも全然良さげだなと思い、そういう使い勝手の良い演出のリストを作りたいな〜〜と思っていた。 - キャラクターの理論
キャラクターをどう描くのか、というもの。サブテクストに注目してやっていた。けどこれを実作に活かそうとして失敗している。 - 得意なジャンル、テーマ、感情
得意な、というかある程度絞って書こう、ということ。自分の好きなものがどれで、どういうものを書いていると楽しくやれるのか。ダンブラウン先生もprotect your processみたいなことを言っている。
『「感情」から〜』で得られた問題意識
- 読者の感情をどう揺さぶるのか
これは俺がドラマとぼんやり呼んでいたものだが、これの内実がめちゃくちゃはっきりと書かれていた。今まではどういう仕組みでドラマが成り立つのか、ということばかり考えていたが、結局のところどう読者の心が動いたのかが問題。アホみたいな話だが、結果を意識しないとな〜〜ということを思った。 - キャラクター作りに関する整理された内容
キャラクター作りのよくある例といえばキャラクターに100の質問、みたいなやつだが、本書はそれをフランケンシュタイン方式と呼び、それに代わる方式を紹介していた。キャラクターが物語の中でどういう役割を持つのか(おそらくそれはキャラクターのアークとしての役割や、生きた人間として読者の依代になるようなものだと思っているが)、という視点からキャラクターに必要な要素をまとめていた。本書を読む直前の問題意識がキャラクターだったので、この章はだいぶ唸った。 - コンセプト
本書を読む前まで、コンセプトは結構適当に扱っていた。が、大切だな〜〜という当たり前のことを思えるようになった。本書を読む直前に『工学的ストーリー創作入門』を読んでおり、「コンセプトはWhat if? で言い換えられるもの」と説明を受け、訳が分からんと思っていたが、今ならほんまそれと言える。脚本術の内容で馬鹿らしいと思ったものはだいたい自分の知識が足りていない、俺の場合は。。 - 構成
構成とコンセプトの繋がりを理解できた。たくさんのwhat if? があるということはそれだけプロットポイントを作れるということ。 - 場面、ト書き、台詞
これは書いていく中でどうブラッシュアップしていくか、ということなんだが、今まで以上に改稿作業で頭を使えそうだなと思っている。また、既存の小説を読む際になぜ自分はここを面白く思ったのかメモするんだが、それが一層捗りそう。
最後に
本書を読み終えて、今まで読んだけど理解できていなかった視点について改めて考えてみたいという気持ちが出てきた。今まで適当に読み飛ばしていた内容も今ならわかる気がする。というわけで、すでに持っている脚本術関連の書籍をまた読み返したいな〜〜という気持ちです。
最後に、本書を出版してくださった社の方、翻訳家の方、もちろん著者さん、ありがとうございました。マジで良かったです〜〜〜!!! 巻末にも著者のメールアドレスが書いてあったので感想を送りたい。
以上。