親です。

読んだ本とかについて書いてます

2020.12に読んだ本とか

はい感想。

2020.12に読んだ本

『隠された奴隷制

めちゃくちゃにいい本だった。『奴隷船の世界史』もよかったけどこれもほんとによかった。
大西洋奴隷貿易がどのように資本主義の形成に関わってきたのか、そして奴隷制度に成り代わった資本主義とは本質的にどのようなものなのか、私たちが生きる新自由主義とは資本主義からどう進化してきたのか、というようなことが書かれている。直前に大西洋奴隷貿易についての新書を読んでいたので奴隷貿易で蓄えられた資本により資本家が生まれ資本主義(資本だらけだな)が成り立つというのは知っていて、しかし奴隷制という文脈をしっかりと読み取った上でマルクスが資本主義を批判していたとは驚きだった。
あと現代日本新自由主義がいつからどんなふうに始まるのかとか、昨今の自己責任論がどのように求められてきたのかみたいなのが知れたのも面白かった。数年前に流行ったアドラー心理学とかは80年代(?)の自己啓発セミナーにもあった考え方で、新自由主義の流れとも同調してる。おもしろい。あーあと、資本主義の後についても論じてて、どっかの偉い人が原発事故とかについて言及してたのも(自分の中で繋がるという意味で)良かった。
次は労働問題系か、宗教史か、巨大災害か、共産主義か、引き続き資本主義・奴隷問題の本を読みたい。絶望と信仰の文脈で資料は読んでいきたくて、どのように社会が人間性を奪ったり搾取をしてきたのかという本か、人の信仰にまつわる本を読みたいという感じ。
とはいえ、並行して『化け者心中』『告白』も読んでるのでそちらも読みたい。近世・近代日本の小説です。どっちも面白い。

『82年生まれ、キム・ジヨン

2016年に韓国で出版され、日本でも去年ベストセラーになってる小説。韓国で女として生きるとはどういうことなのか、みたいなところを描いている。とはいえ、お隣の国の話なので描かれるのは日本にもある景色。
たとえば主人公は三人兄弟の真ん中。姉、自分、弟という感じなんだけど、何かにつけて弟が贔屓される。たとえば部屋の割り振りとか、ご飯の出され方とか。俺も姉ふたりいる末っ子長男なのでこういうのにはすごく心当たりがある。俺も部屋は一番大きかった。大学も姉らは地元でバイトしてたのに、俺だけは東京で学費も払ってもらっていた。
ほかにも通っている塾でつきまとわれるとか、会社で盗撮されるとか、そういう性被害に遭遇する描写がある。びょう俺も前職でセクハラを見聞きしたことがあるし、そういうときに指摘したり、被害者に正しい態度を取れなかったなと思う。ていうか、いまでも自分の行為がセカンドレイプになることがあったりもする。
この本は内容としては男女差別事例を追いかけているようなもので、いうてしまえばこういうことがあるなんてみな知ってるし、事例集みたいなものなんだけど、だからといって「これ知ってる」と既知のコンテンツとして消費され終わらないのは、こういう体験が決して消費され得ない・コンテンツではないからということなんだろうなと思う。同時にちゃんと毎回むなくそわりーなと感じていかないとなとも思う。

『告白』町田康

明治の初頭に実際にあった河内10人斬りという事件を題材にしている。とはいえ時代物というか町田康というかんじで、ふつうに現代の言葉も出てくるし、全編とおして素っ頓狂な調子だった。
簡単に内容について書いておくと、幼少期からなんとなく周りと馴染めなかった主人公が、10歳そこそことかで人を殺してしまい、その罪悪感から身を持ち崩す話。そのどう馴染めないのか、なにが違っていて周りと馴染めないのかみたいなところがかなり共感できて良かった。具体的に書かれているのは博打や飲酒や喧嘩や借金のことばかりで主人公もグダグダいらんこと考えるばかりでめちゃくちゃ怠惰。真面目に労働したところでどうせいつか人殺しが露見して捕まると思って畑仕事もできません、と言ってるけどいや単に働きたくないだけちゃう? みたいに思うところもある。人を殺してなかったとしてもなにか別の理由で働かなかったでしょ、と(自己責任論者の理解)
後半からは仲の良い人ができてさまざま面白くなっていき、終盤はそれまでの滑稽が消えて妙なドライブ感と共に破局を迎えるのが良かった。町田康町田康にしか書けないものを書くなあと思わされる。

カンディードヴォルテール

18世紀中頃のイギリス文学(?)で、ヴォルテールの作品。主人公が18世紀の社会で新世界旧世界を問わず諸国を渡り歩き、各地で苦難に遭うという内容。当時は最善説(予定調和説)が普及してるんだけど、それに対してヴォルテールがいや世界クソでしょ、というために書いている(もちろんそれだけではないが)。作品の中ごろで主人公がひとりの奴隷と出会い彼の話を聞き、最善説なんてものはあり得ないのだと悟るシーンが有名。たしかに最善説について『すべてが最悪のときでも、これが最善だと言い張る執念のことだ』と言うのはちょっとかっこいい。くわえて、ヨーロッパの生活が奴隷の手足を一本ずつ切り落とすことでなりたっている、というのも衝撃ではある。
あとはラストの「議論とかするひまあったら働きましょう」も良かった。しかし労働って何なんでしょうね。

『パンの科学 しあわせな香りと食感の秘密』

パン作りにまつわる科学的な解説がされている。パン作りの各工程でどんな化学反応が起きているのかと言うことについて解説されていて、錬金術は台所で生まれた、という言葉そのまんまのような内容だった。とくに発酵の仕方については面白いなーと思わされた。今でこそドライイーストを使って簡単に発酵をさせることができるけど、イースト菌が工業的に生産されるようになったのは19世紀からのこと。それまでは小麦がもともと持っている酵母を使っていたらしい。ただ自然と小麦に付着する酵母なんてドライイースとと比べるとカスみたいなもんだから、小麦粉と水を混ぜたものを2日くらい置いておくことで酵母を増やし、それを種としてパンを作ったらしい。そんなことしたら細菌とかも増えるのでは? と思ったが、酵母が増殖する過程で培養液(パン種のこと)のPHが低くなり、細菌は増えなくなるらしい。そんなおあつらえ向きの酵母が小麦に付着してるってのがまあちょっと出来すぎた話のように思えるが、実際そうらしい。農場主仮説を疑ってしまうが。。
そんな感じ。他にもパンの本(レシピ本)買ったので、いろんなパンを焼きたいな〜と思う。焼きたてってめちゃくちゃテンション上がるしね。馬鹿みたいに食べちゃうけど。あと馬鹿みたいにパン食べるとむちゃくちゃ喉乾くんだよな〜何でだろ? 塩分多いのかな? 取り留めなくなってきたのでおしまい。

『100分de名著 ブルデュー ディスタンクシオン

ざっくり内容を(振り返りの意味を込めて)まとめておくと、

人が何かを好きになるとき、「偶然その対象と出会い『稲妻の一撃』に打たれて好きになる」とするのはわりと自然な考え方だけど、実は幻想。好きになるためには豊富な下地が必要で、その下地は遺産として受け継いできたものに他ならない。つまり出身階級や学歴によって規定されている。この「価値判断の傾向性」のこと(そして価値それ自身のこと)をハビトゥスと呼ぶ。
またハビトゥスは単に親が音楽好きだから子供も音楽を聴く、と言うだけではなく、たとえば「子どもの頃にピアノをやっていたことで努力して技術を身につける経験をし、その後もあらゆることに努力する発想が持てる」みたいなこともハビトゥスとしている。
このように、家庭や学校の中で得られたハビトゥスによってその人の所属する集団が規定されていく。
同時に、何かを好きだと言うことは、そのハビトゥスの価値を高め、ひいてはそのハビトゥスを選んだ自分の社会階層を上位のものにしようとすることですらある。

自分の趣味趣向が社会階層によって規定され、さらに自分の地位を高めるために利用されていると言われてしまうとなんというかこう傷つくぜ...と思った。ただ誌面で言われている「自分のやっていることを台無しにされたような気分になったのであれば、自由の神話にとらわれている」ような状態かと言われると微妙に違う。自分が小説の好みが金のない知識階級っぽいと言われるのは別にいいんだけど、この問題がたとえば正義の問題にまで及ぶと考えたときに、すげー辛くなるって話だ。大卒だけど資本家にはなれずかつマッチョな思想にも乗れなかった自分がリベラル思想に走るのは納得するが、それをもとにたとえば募金したりのような社会正義をなそうとすること自体が自分の階級を押し上げるためだとするのはけっこう苦しい。じゃあおれがもし資本家の家庭に生まれていたら募金みたいな馬鹿なことはしなかったのか、まあしなかっただろうなとも思う、そりゃそうなんだけど、まあ別に正しいことである意味なんて別に無いけど、世の中がマシになるために自分のできる範囲でやってることがエゴイズムでしかないと言われるのは、なんだかなとなる、べつにエゴイズムだろうとやるんですが、エゴイズムだからこそ続けられるんだろうなとも思うし、何が言いたいのか分からんくなってきたな...。
まあそんな感じ。ここまで書いてあれですけど、ブルデューの思想が還元主義ではないというのが若干わからなかったり、解説者の言う「自分が自分に抱く幻想から離れられるから自由でいられる」、決定論ではない、とするってのもよく分からなかった。自分のクラスタを意識して初めてそれ以外についてやってみよかなと思えるってことかな? もしくは他者の合理性について考えられるてことかな? そんなかんじ!!!!!

なんだろ、まあこれ読んでナイーブに傷つくなとか言ってんのは馬鹿みたいな話ではあるんだけど、人間の思想みたいなものが所詮は階級闘争でしかないとするとどうやって社会としての連帯をもてばいいのかみたいな気持ちがあった。それについては最後の章で著者が自分の意見として触れていてよかった。
あとは絶望と信仰の問題として、絶望に対抗する方法として強かな合理性というのがあるんだろうなとも思った。全部が全部、なにかを一途に信じる、希望を抱くことだけでやっていくのではなくて、もっと生活に根ざした形での適応がありうるんだろうなと思う。もちろんそれが100点の回答ではないにしても。

『最悪の事故が起きるまで人は何をしていたのか』

めちゃくちゃデカい機械が爆発する事故60件について延々書いている本。まあほんとそれだけなんだけど、冒頭から液体二酸化炭素のタンクが爆発して周囲にいた人を吹き飛ばしさらにはタンクの置かれていた部屋の天井を突き破り上の階にいた研究者をかちこちに凍らせた事件についてかなりドライヴ感のある文章で書かれていて面白かった。なんか、この本は筆者のかきぶりがよくて、たんなる事故なんだけど臨場感がすごい。また筆者の教養も高い。すごく気に入った一節をあげると、
一八九三年、ラドヤード・キップリングは「マッカンドルーの頌歌」と呼ばれる詩を出版している。その詩のなかで彼は「蒸気の歌」をうたう詩人を与えてほしいと神に求めているが、スリーマイルアイランドは自分で自分の歌をうたっていた。創業開始から一年間、毎月のようにタービン建屋内の弁が開いて余分な蒸気を逃すたびに、排気パイプはひゅうひゅうという大きな音をあげていたのだ。
めっちゃかっこよくないですか?スリーマイルがすごくこう、大きくて神に近い存在だと感じさせる。神に求めないといけないことを自分でやってしまうという禁忌感もあって凄く良い。
こういう文章からもわかるけど、複雑性の増して人には扱いきれなくなった機械って神っぽい振る舞いをするんだよなあ。でかすぎるいろんな機械に祈りを捧げながら使うみたいなの、ポストアポカリプスにありそうっちゃ有りそう。もともとそういう意図で読み始めた本なので、楽しかったです。おわり。

2020.12に見た漫画・映画・ドラマ

チェンソーマン』最新刊

ゴールデンカムイ』最新刊

ハウルの動く城

また見た。日常会話でもハウルのセリフを使って喋ってしまっている。ありがとよー、とか。

『ハーレイクインの華麗なる覚醒』

軽いノリも良かった。ヒール履いてアクションするのがカッコいい。ぴちぴちのパンツ履いて蹴りまくるのも良かった。 主演のマーゴットロビンのアクションが本当に良い。新体操でもやってたのかな? アイトーニャも良かった。音楽が若い女性アーティストばかりらしい。フェミ映画。良い。

『椿の花の咲く頃』

2019年の韓国ドラマ。めちゃくちゃよかった。
正直最初の3話くらいはこうセクハラ描写とかがしんどくて見るのやめようかと思ったんだけど、最終的に最高になった。 ジャンルとしてはロマコメで、しかしそこに韓国映画っぽいサスペンスが挟まれてる感じ。親子関係とか貧困家庭とかについても描かれている。
よかったのは役者の演技。最初の数話は多少不安定な気がしたけど、中盤以降はヒロインも独り立ちし、主人公についてはもうこの役者さん以外では演じられないのでは? というくらいしっくりきた。あとヒロインの母親役をやっていたイ・ジョンウンさんという役者さんがすごい。『パラサイト』とか『愛の不時着』にも出てるらしいんだけど言われなかったら気がつかなかった。役が広すぎる。
最終的には硬派なクライムサスペンスみたいな雰囲気も纏いだしたけど、基本的にはコメディに軸足を置いていて、シリアスになりそうなシーンでも気持ちよく笑わせてくるのが見ていて心地よかった。

ミッドナイト・ランナー

これ面白かった。警察学校で生活する学生のバディもの。カン・ハヌルとイテウォンクラスの主人公がダブル主人公してる。

『サバハ』

韓国の新興宗教もの。宗教研究家の主人公が新興宗教の正体を暴こうと奮闘するうちに女子中学生の殺人事件にいきあたり、みたいな話。冒頭のアメリカン田舎ホラーっぽい雰囲気とか、主人公がTRICKの上田っぽい胡散臭さだとか、東学やキリスト教などの韓国の宗教事情を反映させた内容とか、あとは日本に植民支配されたことなどが扱われていてかなり面白かった。韓国の宗教系ホラーサスペンスといえば『コクソン』だけど、『コクソン』よりはノリやすいエンタメをしていたのでおすすめ。
韓国の映画はこういう社会的なモチーフの取り入れ方がとてもうまくて好きだなあと思う。国が若いから社会問題にたいしての意識が強いのか。ポンジュノも資本主義についてずっと撮ってる。韓国はかなり急激な発展を遂げていてそういう資本主義についてのテーマは大きいだろうし、一方今回の東学とキリスト教って題材にしても「韓国の近代化の中で西洋科学と共に知識階層に受け入れられその後日本の占領下で反日活動を支えたキリスト教」というのが韓国の歴史の中で大きな意味を持っていて、あーいいなーと思う。社会が持つ文脈がまだ残ってるんだなというか。

以上。。