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物語を多層的に描く手法——『サブテキストで書く脚本術』の感想

サブテキストで書く脚本術-映画の行間には何が潜んでいるのか-リンダ・シーガー』を読んだ。

最初からこんなこと書くのも失礼なんだけど、本書、読みづらくって一回離脱した。サブテキストについておもったことを気ままに書いた感じで、何が重要な概念であるとかが全く整理されていない。

ただサブテキストに目をつけたのは本当に意義深いことだとおもう。おかげで自分もこうしてまとめをできているわけだし。

今回はその内容をさらっと紹介したのち、脚本術におけるサブテキストの立ち位置を書く。


『サブテキストで書く脚本術』のまとめ

1. サブテキスト——定義とその広がり

サブテキストの定義について。 サブテキストとは、言葉や行動に現れていないが意図されたもののこと。 それが現実や作品にどういう形で現れるのか、具体例を交えて書かれている。

2. 言葉を通してサブテキストを表現する——登場人物の情報と経歴

登場人物のどういった情報がサブテキストで表現可能かについて書かれている。表現対象の話。 例として出てきたのは、

  1. 技能、才能、能力についてのメタ情報
  2. どれだけお金を持っているかについてのメタ情報
  3. 宗教を持つ/持たないとはどういうことかについてのメタ情報
  4. 真の欲望、欲求、目標を示唆するサブテキスト
  5. 影の部分を示すサブテキスト
  6. 否定、態度、隠蔽を示すサブテキスト

後ろ暗いものやメタ情報はテキストに直接出てこない。そのためサブテキストとして言葉の節々に現れることになる。

3. 言葉によってサブテキストを表現する技術

2は表現対象の話だったけど、3は表現技法の話。比喩とかダブルミーミングとか、いろんな手法でどう複数の文脈を生むか? というのをやってる。文章技法のレベルでサブテキストを生むという発想が案外なかったので参考になった。 列挙していくと、

  1. 直喩
    「〜のようだ」(直喩)を使う。テキストとは別にイメージが生まれる、と書かれている。 だがそれよりも、そういう比喩が話者のその物事の捉え方を示すという点でサブテキストを使えてるんだと思う。
  2. ほのめかして、明かす
    一度サブテキストの中に込めた真意を改めて言い直す。
  3. 中断して暗示する
    「ば——やめろ」みたいな、一回止めることで真意がありますよと示す。
  4. サブテキストを間違えて解釈する
    サブテキストのある状況を誤って解釈し、正しい解釈を提示し直す。遠藤周作っぽいな。
  5. 意味が響き合うように正しい言葉を選ぶ
    これも話者の解釈を伝えている。話者がどんな認識でいるか、それが出てくる言葉を使う。
  6. 同じ言葉を繰り返す
    一つの言葉を何度も使うことで、そこに辞書的な意味以上の意味を込める。
  7. ぼかし表現
    はっきりいうと角が立つことをぼかして示す。
  8. 裏に別の意味を持たせる
    別の話題全体が何かの比喩みたいになってるやつ。いきなり小鳥の話をしはじめたと思ったらそれを自分とダブらせているみたいなやつ。
  9. 裏に性的な意味を持たせる
    別の話題を使ってセックスについて話す。
  10. ダブルミーミング
    特定の言葉に複数の意味を持たせる。
  11. ト書きを選ぶ
    ト書きで小道具とかを指定し、そこに意味を持たせる。
  12. 名前を選ぶ
    そのキャラクターをしめすような名前。
  13. タイトルを通じてメタファーを作り出す
    タイトルに意味を込める。

4. 身振りや行動を通してサブテキストを表現する

ここも前章と同じく、身振りや行動でサブテキストを表現する細かなパターンについて書いている。列挙すると、

  1. ボディランゲージ
  2. リズムとペース
  3. 習慣的な振る舞い

また、キャラクターの決断や目標に絡むサブテキストについても触れられている。これはかなり重要な概念なので後ほどちゃんとした形で触れる。

5. イメージとメタファーを通してサブテキストを作り出す

セリフとかアクション以外にも、小物やらに意味を持たせる方法がある。列挙すると、

  1. 季節、天候、時間帯
  2. 映像、画像
  3. 小道具
  4. 登場人物をメタファーを通じて表す

6. ジャンルを通してサブテキストを表現する

特定のジャンルでよく扱われるサブテキストについて書かれている。

  1. ホラー
    文明批判のサブテキスト
  2. スポーツ
    勝ち負けのサブテキスト
  3. コメディ
    危険な行為をコメディ的な出来事でしかないと読ませる。 (というのがなぜサブテキストなのかは理解できなかった。)
  4. SF
    別世界を通して現実を描く。

7. 脚本家アルヴィン・サージェント、サブテキストに思いを巡らす

エッセイ。特に意味のある内容ではない。


サブテキストについての考察

内容の紹介は以上。

ここからは『サブテキスト〜』の内容を脚本術の文脈からまとめ直す。

目次は以下。

  1. サブテキストの定義
  2. 代表的なサブテキスト:中心的な問いのサブテキスト
  3. これから:サブテキストの広がり

1. サブテキストの定義

はじめにこの記事におけるサブテキストの定義と、この記事で議論するテーマついて書いておく。

『サブテキスト〜』ではサブテキストを「言葉と行動の表面から奥へと潜っていったところで煮えたぎっている真の意味」と書いていたが、今回議論するにあたり、その効用の面から下記の通り定義したいと思う。

サブテキストとはテキストに直接書かれた内容とは別に、ほかの文脈から暗黙のうちに与えられる意味である。それがもうひとつのテキストであるサブテキストだ。

ここではサブテキストの多層的な意味づけという技法について考えたい。サブテキストと簡単に呼んでしまっているが、手法自体はいろんな方法がある。全てを解説するには時間がないので、今回は特に代表的なサブテキストの手法でについて脚本術上の位置づけを含めて書き、それ以外の手法については最後に軽く触れる程度とする。

(注:用語について。「サブテキストのあるテキスト」という言葉は可読性をめちゃ損なうので、今後は単にサブテキスト、もしくは多層性のあるテキストと呼ぶことにする。適宜読みかえてほしい)

2. 代表的なサブテキスト;問いのサブテキスト

読者に意味の多層性を感じさせるものには色々とあるが、その中でも代表的なのが問いのサブテキストだと思う。これは既存の脚本術の体系で論じることができる。

問いのサブテキストの説明をする前に、脚本術における問いと答えの概念について説明する。

ストーリーの基本要素は出来事だが、その出来事を構成するのがアクションとリアクションだ。登場人物が何かを期待してアクションし、しかし期待とギャップのあるリアクションが返ってくるため、さらなるアクションが求められる。こうして出来事は連鎖し、ストーリーを編み上げる。このアクションとリアクションのペアのことを出来事と呼ぶ。この内容は『ストーリー』(ロバート・マッキー)に詳しい。

また出来事の連鎖はフラクタル構造をとっていて、出来事より大きなシーンだとか幕だとかお話全体だとかについても同じようなことが言える。

特にお話全体の構成については三幕構成と呼ばれる。内容は、まず第一幕で中心的な問題を提起し、第二幕で葛藤し、第三幕でそれが解決するというもの。

出来事は登場人物が動機をもち、行動し、その行動によって新たな動機を抱くことの繰り返しである。そして全体構成は第一幕で登場人物が物語を進める動機を得て、第三幕で解決する。出来事も全体構成も問いがたち解決される点で共通している。

物語においてこの問いと答えの要素は重要で、至る所にある。

そしてこの問いを利用したサブテキストが「問いのサブテキスト」になる。物語の中心的な問題や、主人公が抱える内面的な問題、そして特定シーンにおける目的など、物語中にはたくさんの問題がある。その問いが意識されているにせよされていないにせよ、主人公の行動に影響を及ぼし、読者にはその影響が見て取れるようなケースが問いのサブテキストである。

例をいくつか見てみよう。

主人公はあっけらかんとした性格。仲良くなりたい相手とのデートで失敗をし、それをとっさに隠してしまう。

隠すという行為にはサブテキストがある。デートを完璧にこなすという目的があるため、普段はしない隠蔽をしているのである。

離婚した父と意気揚々とハイキングに出かける主人公。森で聞いた鳥の鳴き声に父はカッコウだというが、姿が見えるとどう見てもそれはカラスだった。雨に打たれホテルに逃げ込むと、父はホテルの従業員を口説き始める。翌朝母に迎えに来てもらった主人公は経緯を話し、カッコウはカラスだったんだ、と告げる。
(『セックス・エデュケーション』)

これは主人公の「父を尊敬したいが、父はクソ野郎かもしれない」という問題が背景にある。序盤は尊敬したいという気持ちから意気揚々とし、その後の失敗のシーンは主人公の恐れが現実化する。カッコウはカラスだった、というセリフはそのまま父への想いを示している。背景にある問題があるからこそ活きてくるシーンである。

またこのサブテキストの重要な点は、サブテキストによって問いが強化されるということである。隠すという行為を通して主人公の想いの強さが理解できるし、カッコウはカラスだったというセリフが主人公の落胆を伝える。

つまりサブテキストのあるテキストは答えの一種であり、サブテキストは問いを反映する。答えに問いを反映させることで問いは強化されるというわけだ。

物語は問題がその解決を求め、解決が次の問題を誘発することで連鎖していく。このお互いがお互いを作り出す構造のなかで、問いのサブテキストも理解することができる。

3. サブテキストの豊富な実例

上で定義したように、重要なのは複数の意味・文脈をテキストに載せられることである。その手法は様々である。

  1. 中心的な問いのサブテキスト
    中心的な問い(例えば世界の滅亡を防ぐとか)が背景にあるサブテキスト。焦りを描いたりすれば中心的な問いの重大さが分かったりする。
  2. キャラクターのアークを示すサブテキスト
    登場人物の問題(例えば孤独感とか)が背景にあるサブテキスト。人を求める行動を繰り返せば登場人物の抱える問題で意味づけを行える。
  3. 社会的文脈のサブテキスト
    現実世界の社会的な問題(環境問題とか)を背景にするサブテキスト。物語中だけの問題ではないと示せば別の文脈がのる。
  4. 交錯するストーリーラインのサブテキスト
    物語の中で並行的に扱われる問題が別の問題に現れるサブテキスト。群像劇などによくあるケース。別の問題が影響する様を書けば、複数の文脈からテキストを意味づけできる。
  5. 世界観を表現するサブテキスト
    物語の世界観を示すサブテキスト。
  6. テーマを表すサブテキスト
    物語を統一するテーマを利用したサブテキスト。特定のテーマについて多角的に描くとき、別の視点が意識されて複数の文脈が乗る。
  7. パロディ・オマージュ
    別作品の模倣。これも別の意味が乗っているのでサブテキストの一種だと数えられる。
  8. 象徴性のサブテキスト
    モチーフを利用したサブテキスト。すでに出てきていたモチーフが、別の文脈を引き入れる。
  9. シーンの目的に対するサブテキスト
    シーンの目的を示すサブテキスト。そのシーン限りの目的が行動に影響する。

他にも色々ありそうだが、ぱっと思いつくのはこれくらい。

これらのサブテキストは明確に切り分けられていない。同時に効果をはっきしたり、組み合わせて何層もの意味づけがなされることもある。

4. その他の論点

以下はメモ。もうちょい別の論点から整理もできそう。

  1. サブテキストの手法
  2. サブテキストで描くべき対象

5. ほかの書籍でのサブテキストの扱い

  1. 『ストラクチャーから書く小説再入門』 『ストラクチャーから書く小説再入門』ではキャラクターの葛藤を描く際のテクニックとしてサブテキストが紹介されている。葛藤する対象はもちろんキャラクターの抱える問題なので、これは問いのサブテキストについての記述といえる。

とりあえず以上。